慢性腎臓病とは
慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の機能が徐々に低下し、不要な老廃物や水分が体内に溜まっていく病気です。
適切な食事療法は、CKDの進行を遅らせ、合併症を予防するために重要な役割を果たします。また、CKDを罹患している場合において食べ物によっては体内に貯留して命に関わる重篤な状態になることがあります。
ここでは、CKDにおける食事療法のポイントについて説明します。(尚、透析療法中の方の食事制限は異なります。こちらでは保存期の慢性腎臓病の方の食事内容になります。)
慢性腎臓病による排泄されづらい成分
CKDでは、腎臓の濾過機能が低下するため、尿中への老廃物の排泄が減少します。特に、以下の成分は体内に蓄積しやすくなります。
尿素窒素(BUN)
タンパク質の代謝産物であり、腎機能の指標の一つです。脱水や出血などでもは上昇しますが、慢性腎臓病の悪化が進むにつれても上昇していきます。体内の蓄積が多くなると尿毒症(食欲不振、倦怠感、意識障害など)を呈する場合があります。
クレアチニン
筋肉の代謝産物で、腎機能の指標として用いられます。慢性腎臓病の悪化が進むにつれて血清クレアチニン濃度は上昇していきます。
カリウム
細胞内の主要な電解質であり、心臓や神経の機能に影響を与えます。高カリウム血症は、不整脈を引き起こして心停止を認めることがあります。
リン
カルシウムとともに骨や歯の形成に関与します。高リン血症は、異所性石灰化や二次性副甲状腺機能亢進症の原因となります。
タンパク質摂取による腎臓への影響
過剰なタンパク質の摂取は、糸球体の濾過負荷を増大させ、CKDの進行を促進する可能性があります。
そのため、CKDの重症度に応じてタンパク質の摂取量を制限することが推奨されています。(下記は一般的な指標です。患者によって内容は異なります)
- ステージG1~G2(eGFR≧60mL/分/1.73m²): 制限の必要はありません。
- ステージG3a (eGFR 45~59mL/分/1.73m²): 0.8~1.0g/kg体重/日に制限します。
- ステージG3b~G5(eGFR<45mL/分/1.73m²): 0.6~0.8g/kg体重/日に制限します。
但し、タンパク質は身体にとって大切なエネルギー源です。過度なタンパク質制限は、筋肉量低下によりフレイルやサルコペニアを引き起こすことがありますので、自己流の食事療法をせずに栄養指導による食事療法を行ってください。
食事療法のポイント
(a) カリウムが多い食品(主な食べ物100gあたりのカリウム含有量(mg))
カリウムは、主に果物、野菜、豆類、乳製品に多く含まれています。
- バナナ(生) 360mg(1本)
- メロン(生) 350mg(1/8切れ)
- アボガド(生) 590mg
- ホウレンソウ(生)690mg
- 枝豆 650mg
- さといも 640mg
- さつまいも 480mg
- じゃがいも 410mg
- ポテトチップス 1200mg
※一般的に乾燥させた野菜やドライフルーツは100gあたりのカリウム含有量が多くなります。
また、調理方法などでカリウム含有量を減らすことができます。例えば、野菜を蒸したり煮たりする、果物は缶詰にするなどです。
CKDステージG3b以降では、高カリウム血症を予防するために、カリウムの含有量の多い食事は控える必要がある場合があります。
CKDステージごとの1日あたりのカリウム摂取量(上限)
- ステージG1~G3a(eGFR≧45mL/分/1.73m²): 制限の必要はありません。
- ステージG3b (eGFR 30~44mL/分/1.73m²): 2000mg/日に制限します。
- ステージG4~G5(eGFR<30mL/分/1.73m²): 1500mg/日に制限します。
しかし、どのような食事にもカリウムが含有されていることが多く、制限することが難しい場合があります。その時は、陽イオン交換樹脂製剤(摂取したカリウムを吸着して体内への吸収を阻害します)を内服して、血液中のカリウムをコントロールします。また、慢性腎臓病になったら、カリウム制限が絶対に必要ということではありません。患者さんひとりひとりによってどの程度の排泄障害があるかは異なります。過度なカリウム制限は低カリウム血症を招くため、必ず医療機関に受診し病状を把握した上で食事制限を行ってください。
*ワンポイントアドバイス:カリウムの多い飲料水
飲料水でもカリウムが多いものがあります。(カリウム含有量mg/容量ml)
- 玉露入りの日本茶(340mg/100ml)
- ミルクココア(95ml/100ml)
- 抹茶(68mg/100ml)
- コーヒー(65mg/100ml)
- フルーツジュース
(b) 塩分が多い食品(主な食べ物 塩分含有量(g))
塩分の過剰摂取は、体内の水分貯留や血圧上昇を引き起こし、CKDの進行だけでなく心血管合併症のリスクを高めます。以下の食品の摂取を控えめにし、1日の食塩摂取量を6g未満に抑えることが推奨されています。国内の塩分摂取量は平均で10-11g/日を摂取していることから、普段から気を付ける必要があります。例えば、減塩のしょうゆや減塩の味噌汁を使用するなどを心掛けましょう。最初は味気ないと思うかもしれませんが、段々と味に慣れていきます。
- プレッツェル 1.9g/100g
- しょうゆせんべい 1.3g/100g
- コーンクリームスープ(粉末)1g/1包
- 食パン 0.8g/60g(6枚切り1枚)
- ココア 0.7g/100mg
- ウインナー 0.4g/20g(約1本)
- マヨネーズ 0.3g/15g(大さじ1杯程度)
(c) タンパク質制限
前述したように、CKDのステージに応じてタンパク質の摂取量を制限します。ただし、必須アミノ酸が不足しないよう、良質なタンパク質(卵、肉、魚など)を適量摂取することが大切です。当院では管理栄養士と相談し具体的な食事内容を決めていきます。
(d) リンが多い食品
CKDステージG4以降では、高リン血症をきたすことがあります。高リン血症の初期には、明らかな症状が現れないことが多いです。しかし、長期間にわたって高リン血症が続くと、血管が石灰化し動脈硬化となり、脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こします。皮膚などにも石灰化を認めることがあり、かゆみを引き起こします。他に二次性副甲状腺機能亢進症を引き起こし、骨が脆くなります。そのため、血液内のリン濃度を適正にする必要があります。リン含有量が多い食事は以下になります。
乳製品、卵黄、レバー、魚の干物、加工食品(リン酸塩を含む)、ナッツ類、豆類など
どのCKDステージでも正常範囲内の血清リン濃度にコントロールする必要がありますが、ガイドライン上、保存期(非透析)CKDのリン制限は具体的には示されていません。また、タンパク質1gあたりリンは15mg程度含むことが一般的であるので、タンパク質制限によりリンの制限ができるとされています。食事療法でも血清リン濃度が高くなる場合は、リン吸着薬を使用して体内への吸収を阻害します。
CKDの食事療法は、CKDステージや合併症の有無によって異なります。管理栄養士と相談しながら、個人に合わせた食事プランを立てることが重要です。適切な食事療法は、CKDの進行を遅らせることができます。
また、自分で食事管理が難しい場合は、腎臓病食の宅配サービスを利用することもできますので相談ください。
参考文献
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